演題詳細


 

タ イ ト ル: 「がんゲノムのデータベース化と共有」

発  表  者: 柴田 龍弘

所    属 : 国立がん研究センター研究所 がんゲノミクス研究分野

発 表 資 料 : 講演動画 / 講演スライド 柴田先生スライド

※発表資料の著作権は、別途記載がない限り発表者/所属機関に帰属します。
 ポスター・スライド内の図や文言を転用する際には、著作者と話し合っていただくようお願いいたします。


要    旨 :  高速シークエンス技術の急速な進歩により、全ゲノム、全エクソン、全トランスクリプトーム解読が世界中の研究室で行なわれるようになった。こうした解析が最も進められている分野の一つががん研究であり、がんゲノム解読によって新しいがん関連遺伝子の発見が猛烈な勢いで進んでいる。
 がんゲノムシークエンス研究の一部は、国際共同研究 (国際がんゲノムコンソーシアム:ICGC)あるいは国家的プロジェクト (米国のがんゲノムアトラスプロジェクト:TCGA等)として行われ、それらの解析結果は共通したデータベースに収納されデータ公開が進められている。ICGCは50種類のがんについてそれぞれ500症例(500ペア、1000人分)のゲノム解読を行うことを目的とし、TCGAでは20種類以上のがんについて様々なゲノム・エピゲノム解析を進めている。我々のグループも理化学研究所と共同でICGCに参加しており、ウイルス肝炎関連肝臓がんのゲノム解読を担当し、そのデータを公開している。一方で文献データを収集することでがんゲノムデータベース構築を進める例として、IARCのTP53変異データベースや英国サンガーセンターのCOSMIC (Catalogue of Somatic Mutations in Cancer) データベース等がある。また最近では900種類を越えるがん細胞株におけるゲノム異常データベースも発表されている。臨床の現場においては、こうしたがんゲノムデータを参照しながら分子診断を行なう、いわゆる臨床シークエンスが早くも導入されつつある。
 がんゲノム情報には、がん細胞で起こっている複雑で多様な変化(遺伝子変異、染色体再構成、コピー数変化、メチル化といった体細胞ゲノム異常)に加えて、罹患リスクを検討するために生殖細胞系列の多型情報も含まれ、多層的かつ膨大である。また多段階発がんやがん幹細胞説で説明されるように、1症例におけるがんゲノム変化は決して単一ではなく、今後は組織内のheterogeneityについても記述していく必要があると想定される。
 本発表では、がんゲノム情報の概要と様々ながんゲノムデータベースについて紹介し、更に国際がんゲノムコンソーシアムにおけるデータベース構築とデータ公開を例として、がんゲノム情報のデータ化とその共有に関する実際と、シークエンスデータ量の加速的な増加や品質維持といったデータベース構築に関する問題点等について紹介したい。


参考文献 (website URL)
1). International Cancer Genome Consortium. International network of cancer genome projects. Nature. 2010;464:993-998. (http://www.icgc.org/)
2). Cancer Genome Atlas Research Network. Integrated genomic analyses of ovarian carcinoma. Nature. 2011;474:609-615. (http://cancergenome.nih.gov/)
3). Forbes SA, et al. COSMIC: mining complete cancer genomes in the Catalogue of Somatic Mutations in Cancer. Nucleic Acids Res. 2011;39:D945-950. (http://www.sanger.ac.uk/genetics/CGP/cosmic/)
4). Barretina J, et al. The Cancer Cell Line Encyclopedia enables predictive modeling of anticancer drug sensitivity. Nature. 2012;483:603-607.(http://www.broadinstitute.org/ccle/home)